O.Yの読書感想文

月平均4冊しか読まないにわかですが、自分なりに読んだ本の感想まとめています。

「凍りのくじら」を読んで

凍りのくじら

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作者 辻村深月

出版社 講談社文庫

あらすじ

藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う1人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき――。

 

リンク

凍りのくじら (講談社文庫) | 辻村 深月 |本 | 通販 | Amazon

 

⚠️注意⚠️

・あくまで個人の感想です

・ネタバレをできるだけ最低限に押さえる努力はしていますしこの先を読んだあとでも面白く読めるようにしているつもりですが一切ネタバレされたくない人は読まないことを推奨します

 

感想

SFを少し不思議だといった藤子・F・不二雄先生に影響された主人公理帆子が周りの人間のことを

少しナントカと名称していきます

 

少し不在

少し不揃い

少し不幸など

少し○○という感じで

自分の身近な人物に名をつける

主人公の母は病院に入院しています

写真家の父は失踪し行方も分からない

彼女は母の死によって本当に一人に

なってしまいます

そんな不安定な時期に

二人の人物が彼女の生活を侵食してきます

 

一人は若尾大紀という主人公の元カレです

彼は司法浪人中であり、

最初は彼に少し不自由と名付けるくらい

純粋で何にも流さることなく

それでいて自分を特別と信じて疑わない人物

そのため少しずつ人を馬鹿にしている彼に

人を必要とされることに喜ぶを持っていました

しかし彼と別れてまた会った時の

彼に理帆子が名付けたのは少し腐敗でした

そんな彼に依存しながら

彼がどんどん沼に落ちていく姿を

追っていくことになります

 

もう一人は理帆子に写真のモデルを頼んだ別所あきらという一つ学年が上の先輩です

彼とは親の境遇が似ていたり彼女を受け入れてくれる

所から彼への興味を徐々に強めていきます

少しずつ理帆子に寄り添い展開を助けながら

ひどく干渉してくることはありません

そんな彼に惹かれながら恋愛観を意識することなく

独特な距離感から中々進行していきません

 

この作品のまず恐ろしいところは

自分が若尾の腐敗を楽しんでる感じるとこでした

人によっては何も感じないのかもしれませんが

僕は正直若尾の腐敗を楽しみに読んでいたと言っても過言ではないほどどっぷり侵食されていたと思います

少し腐敗がどこまで腐敗していくのか

というのも個人的に大好きでした

若尾がどんどん落ちてほしいと思いながら

理帆子の生活に侵食してきてほしくない

という矛盾した感情が読みながらずっとありました

 

もう一つはドラえもんとの関係性です

この作品の章タイトルは全部ドラえもんの道具になっています

このように作中でその話を象徴する道具を理帆子が言います

その道具が出てきた回はこういう回でこういうことがあって最後はこうなる

そうは言いつつこの世界はドラえもんはいないし、ポッケもないし、道具もないです

こういう道具があると言いつつ

それを欲しがるわけではない

救いのない世界でも道具のない救いが

そこにはあったのだと考えるとかなり感慨深くなります

母や父を救う道具が出てこないことも

また深いところだなと思いました

 

残酷な世界でさらに理帆子を

追い詰める出来事が起きながら

物語の世界は救ってくれない

世界が救うのではなく自分が自分を救う物語だってのだと思います

最後のラストこれを幸せだと思えることが一番救いなのだと思いました

あなたはドラえもんの道具で何が一番欲しいですか?